空き瓶通信0052 墓地の桜

MabelAmber / Pixabay

近所の墓地の桜が、根元から切り倒されていた。その桜は大の男が腕をまわしてもとどかないほどの太さで、花を咲かせているときはもちろん、濃い緑の葉をつける夏も、はだかの枝だけになる冬も、いいようのない風格があった。

この桜が花をつけたときといったら、ほんとうにすごかった。なんといっても、墓地の桜である。桜の下には死体が埋まっていると梶井基次郎は書きつけたが、この桜はあたかも根元にあるいくつもの死を養分にするかのようにして、毎年焼かれたばかりの骨のような薄紅色をした花弁を無数に散らせては、わたしたちを見下ろしていた。

別に毛虫がわいていたわけでもないし、枝が落ちてくるような事故があったわけでもない。おそらくこの桜の木を切ったところに、新しく墓でも造成して、ひともうけしようという魂胆なのだろう。なんて罰当たりなことをするのだろうと思う。

ひとの寿命はどうがんばっても百年そこそこだが、木はその何倍もある。自分よりもずっと長い時間を生きてきて、これからもさらに生きていくはずだったひとつのいのちを勝手な都合で殺してしまうほど、人間は偉くはないはずだ。

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