鏡花幻想文学誌 異界/境界 36): 入れ子箱的話法を巧みに利用して時間と地誌の細かく分節された世界が「原初の時」と「魔処」の中に融解されていったことは既に述べた。リアリズムの方向を指していた語りが山姫説話を悠々と語り出る「山神山人の伝説」へと回収されていくのとそれは平行して起っている
鏡花幻想文学誌 37): 「十三年前」の大洪水の記憶が今びしょびしょと水の出る舞台に重ね合わせられる。劫初の時はたえず反復されて円環/循環する原初の生・死のリズムを刻むと例えば比較宗教学者ミルチャ・エリアーデなら言うであろう。直線的不可逆的な時の刻みは断じて廃棄されなくてはならない。
鏡花幻想文学誌 異界/境界 38): 万物を優しく融解し循環させていくのは水という象徴であり、鏡花の母恋いの稟質に徴してみれば即ち母性という情愛のあり方である。母と水の主題的繋がりはほとんど全ての鏡花論の等しく論うところであって贅言を重ねないが、鏡花の異界文学は迷宮の原房でもうひとつの..
鏡花幻想文学誌 異界/境界 39): 核芯的テーマたる〈母〉と重なり合うものであることだけはいくら繰り返しても繰り返し足らない。冥府降下は原母(イシス)探求の旅となる。
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