空き瓶通信0042 「尻の美しいウェヌス」


現代の日本では、美術といったらふつうは絵画を思い浮かべるが、西洋においてはある時期まで、美術といえば彫刻だった。もっといえば、美術作品の頂点は彫刻であって、絵画はしょせん職人がやるものという価値観の時代が、ヨーロッパではながくつづいていた。そのようなわけで、現存する西洋の古い美術作品の大半は、彫刻が占めている。

彫刻と絵画のちがいは、いうまでもなく立体感である。いくら遠近法を駆使したところで絵画作品が平面であることには変わりないのに対して、彫刻は見るものと同じ三次元空間にかたちをもって存在し、もし触れればその感触がつたわってくるリアルな存在である。

また彫刻は、立体であるがゆえにさまざまな角度から作品を見ることが出来る点についても、平面である絵画との違いとしてあげられる。したがって彫刻をつくるものは、それこそ360度あらゆるところからの鑑賞にも耐えられるように、みずからの作品をつくりあげることになる。

今回紹介するのは、ナポリ国立考古学博物館にある「尻の美しいウェヌス」である。そのものずばりな作品名であるが、その美しい顔立ちや首から肩にかけてのやわらかな曲線など、おおくのみどころがあるにもかかわらず、やはりこの彫刻は、どうしたってお尻になる。かりにお尻にかんする題名がついていなくても、この彫刻を見るものは、いやがおうにもお尻に目にいく。それくらい、このお尻には魔力がある。

美術といえば絵画しか思い浮かばないという現状は、たいへん不幸なことではないか。写真という平面空間に押し込められてもリアリティをもって迫ってくるお尻をみながら、わたしはそんなことを思うのだ。

Venus Callipyge

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