鏡花幻想文学誌 異界/境界 52): 魂の浄化を験した聖が「魔処」を去ろうとすると、一本の流れであった「女夫滝」が泣く泣く二つに分かれていく光景を目撃する。「相反物の統一」を言祝ぎ、範疇の無化、時間と分節行為の無化を祝いだ「山」の空間はこうして再び日常の中に忘却されていく。
鏡花幻想文学誌 異界/境界 53): イニシエイションの空間とも夢とも何と呼ぶも自由である。あとはこのパターンに若干の変奏を加えていくだけのことだ。それだけ『高野聖』の異界文学としてのテーマの輻輳、「物深き所」に対する心理学的構造の与え方の具合は完璧だ。ひとつ加えるなら『草迷宮』(明41)。
鏡花幻想文学誌 異界/境界 54): 逗子田越に長逗留した鏡花はここでは逗子界隈の地誌を選んで、「魔処」の深層心理地誌と巧妙に重ね合わせる。「三浦の大崩壊を、魔処だと云う」という一句で始まるこの操作は、例によって地誌をこと細かく縷説するところから出発する。
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