高山宏 學魔_nonbot 身内と胎内 『失われた庭』の僕 110~119

身内と胎内 『失われた庭』の僕 110): 年譜によってはそもそも矢川澄子の名すら載っていないので、はっきり「シブサワ」の名を、ひとつの意図をもって動きだした出版政治学の中のものとして、ぼくは捉えた。いつものように龍子夫人からの贈りものなので全集本体は大切にしているが..

身内と胎内 『失われた庭』の僕 111): 周辺人物の身内ぼめばかりべたべたと続く月報の類は到着の瞬後にしてくず箱中に破り棄てた。裏切られたマニアというのはそういうものなのだ。   それにしても、とF.Gはいまに   して思うのだった。いったいこ   こがほんとうに地図ひとつない

身内と胎内 『失われた庭』の僕 112):   未知の境(テラ・インコグニタ)   といえただろうか。   まさか。そうではないことは   F.G自身、はじめから百も承知   ではなかったか。なぜならこれ   は宇宙の森羅万象のうちの禽獣   の有性生殖という、あまりにも   ありふれた現象の..

身内と胎内 『失われた庭』の僕 113):   一環であり、それがたまたま   F.Gというささやかな肉の衣を   まとったミクロコスモスにお   いて発現しただけのことなの   だ。とすればいまさら事々しく   さわぎたてるまだもない。これ   に対する処方箋やマニュアルの   たぐいは..

身内と胎内 『失われた庭』の僕 114):   古来すぐれた先人たちの手によ   って数知れず用意されており、   小説、詩作品、どころか芸術、   思想、ひいては人間の文化その   ものがこれに対する答えともみ   なされるだろう。事実、F.G 自   身、いままでに無自覚のまま..

身内と胎内 『失われた庭』の僕 115):   蓄えてきたもろもろの雑多な知   識を、いまあらたな段階に入っ   たこころとからだとの複雑な関   係にあてはめては、数々の納得   や慰めを見出してもいたのであ   る。F.Gの胸をいま漠然とむし   ばみはじめた恐れは、しかしそ   うした..

身内と胎内 『失われた庭』の僕 116):   根源的な不安とは残念ながらい   ささか次元を異にしているのだ   った。その上もっと心細いこと   に、いくら古今東西の文学を読   み返してみたところで、F.Gの   いま直面しはじめたような問題   を取り扱った作品はまだどこに   も..

身内と胎内 『失われた庭』の僕 117):   見当らなかった。みつからなく   て当然だった。なにしろ殖えす   ぎる人口を抑制するという、歴   史的にみても未曾有の深刻な課   題に、人類はその頃はじめて取   組んだばかりだったのだから、   20世紀中葉、はっきりいえば..

身内と胎内 『失われた庭』の僕 118):   1945年ヒロシマを境に、人間   と自然との関係は百八十度転換   をとげていた。生殖ということ   の意味は問い直され、それまで   のモラルではどうにも律しきれ   ないデカダンスの美学が擡頭し   地球規模でひそやかに、しかし   確実に..

身内と胎内 『失われた庭』の僕 119):   浸透しはじめていたのだ。ただ   しそのような風潮がはっきり顕   在化して、なんらかの思想的結   実をもたらすまでには、まだま   だ多くの暇がかかりそうだっ   た。

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